エロ伝道師・播磨屋のバブ
ぼくの育った地元に播磨屋という駄菓子屋さんがありました。
駄菓子屋さんというより、洗剤とか雑貨を売っているお店の軒先に駄菓子も一緒においてあるようなお店でした。
そこにはぼくらの同級生の中でバブと呼ばれていた45歳くらいのおじさんがいました。
なぜバブと呼ばれていたかというと、ゾンビ映画『死霊のえじき』(日本公開:86年)に出ていたバブというキャラクターに似ていたからでした。
バブは駄菓子を買うとよくサービスしてくれる気のいいおじさんで、いつの日からか、ぼくらととても仲が良くなりました。
ある日、いつものように学校の帰りに播磨屋に行くと
バブが
「お前ら、ええもん見せたるわ」
と言って、ぼくらを自分の車も中につれていきました。
後ろの座席で待っているとバブはダッシュボードから何かを取り出しました。
出て来たのはキラキラしたトランプでした。
「ほれ、見てみ」
といって裏をめくってみると
外国の男女がまぐわっている、いわゆるヌードトランプというやつでした。
バブ、まじか!と思いつつ、後ろの席に座っていたぼくらは黙って黙々とトランプを回し見しました。
バブはドヤ顔で
「どや、これすごいやろ」
と何度も言ってました。
その後ぼくらは、またあのトランプを見たいという一心で今までに増して播磨屋に頻繁に足を運ぶようになりました。今思うと一種の中毒者患者です。
駄菓子を買って
「バブ、またアレ見せてよ」
というと
「しょーがないなー」
と言って見せてくれるときもあれば、
「今日はあかん!」
と言って見せてくれないときもありました。
バブの気分でトランプが見れたり見られなかったりだったので
播磨屋に行った翌日の学校では、来なかったヤツに前日の結果を報告するのが任務のようになりだした頃、播磨屋からバブがいなくなりました。
おばさん(バブの嫁??)に聞くと
町内会みたいな集まりで海外旅行に行ったとのことでした。
その後、何日かしてから播磨屋に行くと久々にバブの姿を見かけました。
「バブ、ずっとおらんかったね。外国に行っとったん?」
とだれか聞くと、バブはニヤニヤしながら
「すごいの買って来たで。今友達が持ってるけどな」
と自信ありげに言いました。
外国でそっち系のすごい書籍を手にいれたということは、まだ少年だったぼくらにも察しがつきました。
ぼくらは鼻息を荒くしてその日は帰り、数日後、期待に胸を膨らませて播磨屋に行き、
「海外のやつ友達から戻って来たやろ?はよ見せてよ」
というとバブは
「今日はあかん!」
といってぼくらを追い払いました。
いつもの気まぐれかと思っていたら、翌日もその翌日も
「あかん!」
の一点ばりです。
お預け状態が何日か続いた頃、だれかがしびれを切らして
「見せてくれるって言うてたやんか!!」
というと、バブは小声で
「お前らにトランプを見せてたのが嫁にバレたからもうあかんのや。本も捨てられたんや」
と寂しそうに言いました。
ぼくらは「ちぇっ」と舌打ちをして落胆しながらそれぞれ家に帰りました。
エロの切れ目が縁の切れ目。
その日以来、あれほど通っていた播磨屋にだれも行かなくなりました。
しばらくして播磨屋は潰れ、バブも町からいなくなりました。
ぼくらが播磨屋に行かなくなったから潰れたんじゃないかと少し心が痛みましたが、だれかが、ぼくら数人が駄菓子を買わなくなったところであんまり売上には関係ない、閉店はなにか別の理由だろうと結構大人な意見を言ったので、前向きなぼくらは開き直っていつしか播磨屋もバブのことも忘れ、深夜の自動販売機にエロ本を買いに行くようになったのでした。
おしまい。