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毎月11日に全国で行われるFLOWER DEMO。オンラインでも行われた2月のFLOWER DEMOは、1月25日に東京高裁の判決が出た伊藤詩織さんの性被害裁判を支援し続けてきた方々が登壇。支える会の活動を振り返りました。
さらにFLOWER DEMOの2日後の2月13日、1月25日の判決報道がほとんどなかったNHKで『声をあげて、そして 目撃!にっぽん』という30分番組が放送されました。5年間にわたる伊藤さんの活動を丹念に追ったドキュメンタリーでした。
ドキュメンタリー「河瀬直美が見つめた東京五輪」では、「オリンピックを招致したのは私たち」と物議を醸し、「金銭を受け取って動員された」などの誤った内容の字幕を放送し、「スポーツ番組だからチェックが甘かった」と弁明し、「クローズアップ現代」の過剰演出問題の再発防止策として導入されたチェックシートによる確認を怠り、原因究明が不十分な内部調査報告を出し、BPOによる審議入りが決定した今のNHKで、刑事告発や検察審査会の問題には触れなかったとはいえ、この番組が放送されたこと自体が奇跡でした。
また、地上波での番宣こそなかったものの、公式のtwitterアカウントではしっかりと番組が宣伝されていて、多くの人がリアルタイムやアーカイブ放送で番組を見て、応援コメントを寄せていました。経営トップや政治部が権力寄りでも、局内には心あるスタッフがまだ残っていることを改めて確認できました。
https://twitter.com/NHK_PR/status/1492359057537130497
https://twitter.com/nhk_docudocu/status/1492438328221872131
https://twitter.com/nhk_plus/status/1493586395671240707
放送予定が明らかになると、SNSでは伊藤詩織さんへのバッシング投稿も行われました。支援する会である「OpentheBlackBoxー伊藤詩織さんの民事裁判を支える会ー」のアカウントが多くのツィートを通報しています。性被害者が声を上げると堂々とセカンドレイプが行われる日本社会。攻撃する勢力に対抗するとともに、性被害者を支援していきましょう。
2月11日に行われたオンラインFLOWERDEMOでは、「咲ききれなかった花」の翻訳者でもある梁澄子さんがOpentheBlackBox発足の経緯について語っています。
元TBS記者の山口敬之氏から伊藤さんが性暴力を受けたのは2015年4月。その後、刑事告発が証拠不十分とされた伊藤さんは、検察審査会に不服申し立てを行い、2017年5月に初めての記者会見を行いました。それを見ていた大勢の人たちと同じように梁さんも「何かしたい! いてもたってもいられない!」という気持ちに駆り立てられました。
FLOWER DEMOを北原みのりと共に呼びかけたエトセトラブックスの松尾亜紀子さんも「一番最初に詩織さんが立ち上がられた時に、いてもたってもいられない、けれど立てなかった」と語っていたように、「気持ち」が「運動」になるにはきっかけが必要でした。
1年後の2018年10月に北原みのりが誘い、梁さんは二人で伊藤さんに支援を申し出ました。前年の9月に検察審査会が不起訴相当となった伊藤さんは、同月末に民事訴訟を行っていました。
支援する会が正式に発足するのはそこから半年後の2019年4月9日です。なぜ半年かかったのか、梁さんはその時に伊藤さんが仰った言葉をこう伝えています。
「たくさんの性暴力被害者がいる中で、その中には声を出せない人が大勢いる中で、自分だけが支援を受けていいのか?」
性被害者の声を押しつぶそうとスクラムを組む、権力のある加害者たちに、同じように集団で対抗してよいのか、逡巡する気持ち、一人でたたかうべきではないかという責任感が伊藤さんの中にはあったかと思います。
しかし、2019年2月に山口氏から1億3千万円の損害賠償を求める反訴が出され、いよいよ一人では戦えないということになった時、繰り返し支援を呼びかけてきた支援者たちを受け入れ、OpentheBlackBoxが発足します。
2019年4月10日に都内にて開催した『OpentheBlackBoxー伊藤詩織さんの民事裁判を支える会ー』の発足イベントの動画(Part7まであります)。
2019年7月に行われた東京地裁の民事裁判の壮絶な口頭弁論についてはこちらをご覧ください。
伊藤詩織さん口頭弁論傍聴記録
伊藤さんが自分を犠牲にして訴えたおかげで、「同意のない性交は違法である」ということを裁判所が認めました。大変大きな成果でした。
梁さんはまた、支援する人たちの重要性についても触れています。高裁の報告集会で伊藤さんも「支援してくださったみなさんのおかげだ」と語っています。
「周囲で支えてくれた友人知人の存在のありがたさ、人を頼ることの重要さ、こういう運動というのは相互作用で生み出すものが必ずある」と梁さんは言います。
支え合う運動がFLOWER DEMOにつながり、一審で出された性犯罪への無罪判決が次々と覆る動きにつながって行ったのです。
「私たちは黙っていられないことに対しては口を閉ざさなくてもいいんだ。やりたいと思ったことはやっていい。いてもたってもいられないことは、自分の立場がどうあれ、もうやるしかない」
そう梁さんは結んでいます。
弁護団の一人である角田由紀子弁護士は、「法整備と性教育は車輪の両輪」であるとし、私たちに課題を投げかけています。
ひとつは「聞く力を豊かにし、行動する力を養うこと」。
「告発が告発として意味を持つには、それを聞いて受け止める人の存在が必要です。社会が聞く力を豊かにする必要があります。そして聞いたただけじゃダメです。聞いた人はその聞いたことに応じて、適切に行動する力も養っていく必要がある」
もうひとつは、判決後の記者会見でも伊藤さんや角田弁護士が指摘していましたが、
「同意のない性交は犯罪であるということを、子どもの時代から理解させるために、その基礎として性教育がとても必要だ」
ということです。
「不同意性交罪の創設については法制審議会で目下、議論が進んでいます。創設のためには私たちの声を届けるということが非常に大事。不同意がきちんとした構成要件という形で明らかにされて、それが処罰される社会にしていきたいという私たちの願望を伝える必要がある」
角田弁護士は一冊の絵本を紹介してくれました。
「いえるよ! NO(ノー):わたしらしく生きるための大切なことば」
「日本社会ではNoというのが、とても言いにくい構造がある。これも小さい時から教えておくべきとても大事なこと。特に女性は他人に従順であることが美徳だとされてきました。年上の男性にNoということは勇気がいる。そういう古い道徳はさっさと捨てて、Noという権利を流行らせたい。もちろんNoというためには、自分で判断して選択する力を身につける必要があります」
角田弁護士はまた、2018年6月の東京新聞に載った、性教育を必修にしているフィンランドの専門家のインタビューも紹介しています。
性教育を「必修」にしたフィンランドはどうなった? 日本との大きな差
「性教育を行うと、子どもの性行動が早まると考えている人がいる。でも子どもは既にインターネットや友人からの情報でポルノに触れている。学校で正しく教えなければ、誤った知識で性体験を急いだり、自分が相手を傷つけたりする。だから性行動が盛んになる年齢の前に、正しい教育が必要だ。性交や人工妊娠中絶を教えない日本の学習指導要領を変えるべきだ。子どもたちは性について知る権利がある。性教育はあらゆる人々の幸せや安全や健康のためになる。日本は性教育後進国。子どもたちの人権侵害をしている」
ユネスコは各国の研究成果を踏まえ、WHOなどと協力して、性行為のリスクだけではなく、相互の尊重と平等にもとづく愛情や人間関係というポジティブな側面を含む包括的なセクシャリティ教育を推進するために、国際セクシャリティ教育ガイダンスを作ってると角田弁護士。「世界中で使われているのだから日本でも取り入れるべき」として、以下の書籍も紹介しています。
国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】――科学的根拠に基づいたアプローチ
最後に角田弁護士は「個の確立と相手の同意の尊重が大事」と締めくくりました。
「諸外国が性教育を重視しているのは、小さい時から自分と他人の区別を明確にしているから。そのことによって他人の心身の尊重を学ぶことができる。だから肩とか身体であっても、勝手に人に触っちゃいけない、それはあなたでなく、他人だから。だから触っちゃいけないということを、性教育の一番最初に教えるわけなんです。そうすると身体を触るのは駄目なのだから、性行為を同意もなしにやるなんていうのはとんでもないという話になっていくわけなのです。こういうことも性教育の一部。だからうんと小さいときからやるわけなのです。幼児の時から始める。日本はこんな基本的なことも学ぶ機会が保障されていない。大人はそれを教える必要があると思ってないし、そんなことを教えなくてそのうち分かると、保守的な政治家は言っている。そういう話じゃない。セックスの仕方を教えるのではなくて、人権教育として、お互いを尊重し合うという教育として、性教育をやらなければいけない。これはプライバシーについて学ぶ最初の一歩。性暴力を防ぐのはもちろんなのですが、それぞれの個を確立していく、相手の同意を尊重する考えを理解する人間を育てていくためには、実は日本で抑圧されている性教育が非常に大事なのです」
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