サフランライスとポールマッカートニー
初めて本格的なインドカレーを食べたのは高校1年生のときだった。
地元の隣の市(四日市市)に松坂屋ができ、
その中にインド料理屋が入っているということを知って
友達と2人で食べに行ってみようということになったんだと思う。
新しいデパートの中に出来たインド料理屋は高校生が入りにくい少し高級な雰囲気で、
カレーを食べるという実にキャッチーな行為でさえ
ちょっと背筋が伸びるような気分だった。
その頃ボクの地元でカレーといえば、たまにちょっと凝ったカレー屋さんはあったものの、ほとんどが何の変哲もない小麦粉の入った普通のカレーのことだった。
サラサラしたインドカレーには若干の違和感があったけど、意外にすんなり食べれたように記憶している。メニューを見て、ご飯ではなくナンというものでカレーを食べるということを知り、最初はよくわからなかったけど、実際にナンをカレーにつけて食べてみると、こちらも特に問題なく美味しく食べられた。
ただ食べ盛りの高校生には少し物足りなかった。
高校生がお小遣いでお腹いっぱい食べるにはデパートの飲食店は値段が高く
それでもまだもう少し食べたいと思っていたボクらは、メニューの中から安そうなものを探してみた。
すると、サフランライスという結構値段が安い黄色いご飯が目に入った。
これはきっと近所の中華屋でいうところのミニチャーハン的なもの、つまりミニドライカレーに違いないと踏んだ僕たちはサフランライスを1つだけ注文した。
2人の予算的にそれが精一杯だった。
でも1つをシェアすれば、それなりに満足できるんじゃないかとも思っていた。
カレーがなくなっているにもかかわらず
サフランライスを1つだけ頼んだボクらに対して
店員さんはそれだけでよいか?と聞いた。
ぼくらはお金がないことやインド料理の初心者であることを
見透かされたような気分になって恥ずかしかったので、
逆に自信をもってそれだけでいいと答え、
店員さんは少し不思議そうな顔つきで厨房のほうに戻っていった。
程なくしてに届けられたのは、
ご存知の通り、少し風味はあるけど特に味のついていない黄色ご飯だった。
ボクらはおかず(カレー)のない状況で味のないご飯を分けあって食べ、
ひとつ大人になった。
先日、ポールマッカートニーが来日をした。
ボクとサフランライスの友達は、中学の同級生でお互いビートルズが好きで仲良くなった友達だった。
今回の公演は彼と一緒に観に行った。
一緒に見るのは随分ぶりだと思う。
ステージに現れたポールは、
前に観た時より少し老けて声量も少なくなっていて、
ライブの音量も小さかったような気がする。
年齢を考えたら当たり前だ。
ステージは良かったといえば良かった。
というか、世界最高峰の一人のポップミュージシャンだから悪いわけはないんだけど、
個人的には、なぜだか少し覚めて観ていたような気がする。
好きな曲も何曲かやったし、演奏だって悪くなかった。
事前に聴いていた新作も結構良かったんだけど。
帰りに友達と一緒に水道橋の餃子屋さんに立ち寄って飲んだ。
非常に美味しい餃子だった。
ボクらは昔、ポールのライブを観た後は必ずこうして一緒に飲みに行って
あの曲がどうだったとか、この曲がどうだったとかそういう話をしておおいに盛り上がったんだけど、今回は餃子の話とピータン豆腐の話、クミンと紹興酒がいかに合うかというような食べ物の話がメインだった。彼の話は相変わらず面白かったけど、意外と長酒にはならずあっさり新宿でお別れした。
91年、ジョージハリスンがソロとして初来日したとき、
ボクは彼と一緒に名古屋公演を観に行った。
エリッククラプトンも一緒に来るという豪華なツアーだった。
開演して1曲目の『I WANT TELL YOU』のイントロをジョージハリスンが弾いた瞬間、ボクは号泣した。今では信じられないけど、なぜだかめちゃくちゃ泣いた。
四日市に松坂屋が出来たて初めてインドカレーを食べたのも91年だった。