簡単には、、、
地下のチェーン飲み屋から出て来たT子は酔っ払ってフラフラになりながら、
突然 「あ~した天気にな~れ」 と叫びながらサンダルを蹴り上げた。
ゆっくりと宙を舞ったサンダルはスローモーションになって、黒塗りのベンツの上に落下。
朝四時、新宿・歌舞伎町は区役所通り。
誰の目から見ても、堅気の人の車ではないことはわかる。
ヤバい状況であることは間違いない。
いつものように盛り上がらなかったライブ。
そんなこととは関係なく実りのない話で盛り上がっていた打ち上げ。
閉店になって店を出た瞬間に目の当たりにした惨劇。
サンダルを蹴り上げた張本人のT子は、事の重大さに気がつかずにヘラヘラ笑っている。 一瞬で酔いが覚めたぼくらは、
みんなでベンツに近づいて土下座の準備をしようとしたところ、
幸い車の中には誰もおらず、車に傷もなし。
とにかくこの場から逃げよう!
だれが言い出したわけでもないけど、
ぼくらはいそいそと駅の方に小走りで向かったのでした。
もし、ベンツの中におっかない人が乗っていたら、、考えただけでも恐ろしい。
90年代後半の新宿・歌舞伎町での出来事。
その頃は一目でその筋とわかる人が跋扈して、道路脇にはかすっただけで人生がだめになってしまいそうな車が何台も並んでおりました。 夜になると喧嘩や揉め事が勃発して、実際にぼくのまわりにも巻き込まれた人が何人もおりました。
実話ナックルズのようなバイオレンス世界がそこにはきちんと存在していたのです。
2004年、石原都知事の頃に歌舞伎町は浄化がされ悪質なぼったくりバーはなくなり、 職安通り付近に大勢いたポン引きの女性もいなくなり、街頭での呼び込みも少なくなったといわれております。怖い人たちも随分減ったとか。
かつての危険な香りがなくなった歌舞伎町。
それから10数年経った先日、 朝4時の新宿副都心を撮影するというおかしな仕事のために新宿に前乗りしました(このニュースレターの冒頭の写真です)。早朝に家からタクシーで現場に行くより、終電で新宿まで行って時間を潰してから現場に向かったほうが安かったので、深夜の歌舞伎町のサウナに向かいました。
久々の歌舞伎町。
さぞかし、おとなしい街になったんだろうなぁと思ってサウナの入口の自動ドアを開けて目にしたものは、Tシャツのお腹のところだけをはだけさせて(そもそもその格好がどうかと思うが)、脇腹と腕から和彫をチラつかせた明らかにその筋と思われる小指の先が消え失せているおじさんが、受付の同じような風貌のおじさんと、かなり際どいバイオレンスなお話を大声でしている光景でした。
昔の思い出が見事にフラッシュバック!!
なんも変わってねーじゃん!!
街を浄化したり暴力団対策をして怖い人がいなくなることは、
表向きにはすごく良いことだと思いますが、世の中そんな簡単にはいきませんな。
人間が生きている限り、悪いやつなんて絶対なくならないわけで、
形を変えようが変えまいが、怖い人は存在し続けます。
今はまだ過渡期で、伝統的な怖いアイコンのままのわかりやすい人も多数存在するのでしょうけど、これからは見た目が超普通の怖い人が庶民の中に多数紛れ込むんだろうなぁという妙な感慨に耽りながらサウナで汗を流したのでした。