「泣く表情=拒否?」
前号もご拝読ありがとうございました。今夜は中秋の名月ですね。早速、お月見団子を購入して帰ってまいりました。実は月見酒の方が良いので、時間を見てそっちに切り替えるつもりです。
今号は秋らしく本との出合いにする予定でしたが、ちょっと先に延ばして、有料老人ホームの入居者様との出会いです。
初めて出会った時の亜紀さんの印象は小柄で、表情に乏しく、目が開いてるか閉じてるかもわからりませんし、眉間は縦じわでいっぱい。服装や外見も辛うじて清潔を保っているという印象で、認知症の高齢者のディサービスにはよく、いらっしゃるタイプの方です。
私達アロマセラピストは施術のためにディサービスを訪問すると、たくさんの高齢者に初対面でハンドマッサージなどのタッチングを行ないます。認知症の方とのコミュニケーションは健常者との会話とは違いますので、音声言語なしでも自然と相手を観察する癖がつき、なんとなく、見た目や表情の有無、身のおき方で相手の認知症の度合いや、何をしてほしいか、してほしくなかイメージができます。しかし、亜紀さんは良い意味で私の予想をうらぎってくれました。
うつむき加減でじっと座っている亜紀さんの耳元で話かけました。「こんにちは、櫻井といいます。今日はハンドマッサージをしに来ました。亜紀さんいまからさせてもらっていいですか?」すると亜紀さんは眉尻をを下げて、眉間にしわをよせて、泣きそうな表情で何かを言いましたが、私には聞き取れません。
嫌がってるなと思いました。そういう場合はあまり無理強いせずに次ぎのタイミングを待つのがよいので、私は「そうですか、嫌やねんね。ほんだら他の人にしてるのみてて、後でまた来るから気分が向いたら受けてな。」と、立ち去ろうとすると担当の看護師さんが、「よかったなあ。亜紀さん楽しみにしてたもんなあ。」と、私にしてあげてくださいと言うので、亜紀さんの手に触れると顔は相変わらずつらそうなのですが、拒否することもなく、受けてくれました。施術中、亜紀さんからは話すことはなかったので、私もあまり話しかけずハンドマッサージを終了しました。
さて、後日亜紀さんと会ったのは亜紀さんのお部屋でした。その施設で本格的にアロマケアを導入することになったからです。亜紀さんは私の声掛けに、また泣きそうな表情になりました。しかし「亜紀さん今からアロマケア受けてもらえる?」と聞くとははっきりと「はい」というのです。そして、おぼつかなげにですが、ソファーに腰かけて準備をはじめてくれました。
「亜紀さんソファーに背中つけてリラックスした姿勢でいてくれたらいいねんで」というと亜紀さんはソファーに深く腰掛けて目をとじたので、私が「もう寝たん?まだ始まってへんのに早すぎやで?」と冗談を言ってみると、やっぱり泣きそうな顔をしながら声を出して笑ったのです。
なるほど!!亜紀さん泣いてる表情は笑ってたんや?ある意味めちゃくちゃ笑顔やんか!!というわけで、私と亜紀さんはそれから仲良くなり、施術中いろんなことで一緒に笑える仲になりました。
亜紀さんの病歴には高次脳機能障害とあります。
認知症とは違ってなんらかの原因(病気や事故)で脳に損傷をきたし、記憶能力、言語能力、空間認知能力などに機能障害を起こします。
詳細は各都道府県の福祉・保険に関するウェイブサイトで資料を閲覧できます。
参考:東京都心身障害者福祉センター
私達は知らないうちに自分の経験値だけで相手の能力や性格を判断、処理しようとしてしまいます。これはどんな人間関係にも当てはまります。障害の有無に関わらず、私達の目には目隠しがされていて、相手の本当の能力が見えてなかったり、気持ちをないがしろにしたり、という現実があるんだなって思いました。気をつけないと。
ゆっくり時間をかけてその人を観察して、コミュニケーションをとることで、見えてくるその人の姿、そのコミュニケーションをサポートしてくれるのがアロマケアなのかもしれません。
「介護に役立つアロマケア」の授業は福祉現場でアロマケアを実践できる人材を育てます。
次回 アロマケアレベル1 10月9日(日)は広島での開催となります。是非皆様ご参加お待ちしております。
11月5日(土)アロマケアレベル1は東京開催決定です。
次回は10月1日発行予定です。
なかなかいろんなことがすすますジレンマの秋です。 櫻井かづみ